クラシカルな廊下

Tarot de Marseilles(マルセイユタロット)という名称は、南フランスにある Marseille(マルセイユ)という古い都市にちなんだものです。マルセイユタロットの絵柄に秘められた霊性は、不思議なことに東洋にすむ私たち日本人の心にもその深いところで通じ合うものがあります。マルセイユタロットに秘められた叡智は、私たちひとりひとりがもつ魂に響くものとなり、混沌とした暗闇から光を見出すための道となることでしょう。



1.マルセイユタロットの起源

マルセイユタロットの起源は、少なくとも紀元1000年にさかのぼります。この時代の南フランスでは、キリスト教の教会、ユダヤ教のシナゴーグ、イスラム教のモスクが近隣に建てられ、この三つの宗教はお互いに敬意を払うことで平和を保っていました。それだけでなく、それぞれの宗教の賢者たちは他の宗教の賢者たちと接触し、哲学的な議論を交わすことで、自らが信仰する宗教の概念を普遍的なものへと深め、豊かにすることを怠りませんでした。

マルセイユタロットの研究家アレハンドロ・ホドロフスキー(Alexandro Jodorowsky, 1929-)は「タロットの宇宙」という書籍の中で、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教という三つの宗教の賢者からなるグル―プが、将来これらの宗教が退廃し、権力欲から宗派間の争いが起きることで、これまで受け継がれてきた神による聖なる教えが消えることのないよう、この慎み深いカードの中に保存したのかも知れないと記述しています。この聖なる教えはいったんカードに隠され、そこから1000年以上もの長い歴史の暗闇を生き延びて、いま再び高次の意識を持つ人々によってその聖なる教えが開示されています。




もし誰かがタロットを解読することを教えうるとすれば
それは生身の師匠ではなく、タロットそのものなのです
(アレハンドロ・ホドロフスキー)



2.マルセイユタロットの誕生
現存する最古のカードより半世紀前の1392年、フランスの宮廷画家ジャックマン・グランゴヌールが、心の病にかかっていた国王シャルル6世のために、金箔をほどこした3組の遊戯用カードを描いて献上し、国王から報酬を得ていたことが会計検査院の記録として残されています。このカードは現存していないのですが、この記録から、14世紀の終わりにはすでに、フランスの宮廷でタロットカードが作られていたことがわかっています。

イタリアとフランスがそれぞれ国として区分されたのは19世紀の終わり頃のことです。二つの地域はもともと同じ文化圏に属しており、貴族のヴィスコンティ家は長らくマルセイユ伯も兼ねていました。つまり、ミラノとマルセイユは同じ国王を戴いていたのです。

フランスのマルセイユにあるタロットカード製作者組合に受け継がれてきた伝承から、ヴィスコンティ=スフォルツァ版のデザインはオリジナルではなく、民間に出まわっていたマルセイユタロットをもとにして作られたことがわかっています。

マルセイユとその近郊のプロヴァンス地方は当時、製紙業と印刷業の一大集積地でした。ここでマルセイユタロットの原型となる原画が作られて版画として印刷され、それがフランスの国王シャルル6世やイタリアの貴族ヴィスコンティ家、スフォルツァ家に感銘を与え、金箔がほどこされた豪華なカードを生み出すきっかけを与えました。

このように、マルセイユという小さな町がかなり古くからタロットの生産地として知られていたことから、そこで製作されていたものをマルセイユタロットと呼んでいます。



3.現存する最古のタロットカード
現在のトランプやタロットの原型となった4つのスート(suit: マーク)の遊戯用カードは、14世紀にアジアからイスラム世界を経由して西ヨーロッパに入りました。

タロットカードとして現存する最古のものは、イタリア・ルネサンス期の画家アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna, 1431-1506)によって描かれたものです。この時期にイタリアで製作されたタロットカードは他にもいくつかあり、北イタリアの要衝で都市共和国であったミラノを統治していた貴族のヴィスコンティ家とスフォルツァ家に豪華な装飾がほどこされた手描きのカードが幾組か遺されています。これらの現存するカードについては、製作のスポンサーとなった貴族の当主の名前と、カードを描いた画家の名前がほぼわかっています。なかでもヴィスコンティ=スフォルツァ版と呼ばれるカードは非常に洗練されたデザイン原理に基づいて描かれており、象徴体系のかなりの部分がそれ以降のタロットに踏襲されています。大アルカナカード22枚、宮廷カード16枚、数カード40枚というタロットの基本的な構成は、この版においてすでに確立されていました。

ヴィスコンティ=スフォルツァ版カード(Wikipedia)


ヴィスコンティ=スフォルツァ版カード
「運命の輪」
タロットカード





南フランス・マルセイユ地方の風景
マルセイユ



〔補足〕
◎12世紀に製紙術と木版による印刷技術がヨーロッパに伝わった。
◎カバラーの経典、聖書、聖歌なども印刷されるようになった。


記事更新日:2026/02/05