◎言霊井❷
井の音は、万物を搦(カラム)の義故に、潮水(シホミツ)也。何(な)に故ならは、先(まづ)ウシホの語を解かは、ウは省け、シは昇水の灵にして水也。ホは正火の灵にして火也。火水交る水を、シホと云。今、万物に搦む水なれは、火か交(マチハ)らねは、水からむことなし。水のシホハユキは、火の交る故也。海水のシホミツはかりにあらす。人の胎内にもシホ水の井の灵搦む故に、胎内の水、シホハユシ。是を血シホと云。目鼻口屎尿、皆シホならさるものなし。又、人のみに非。万物みな如レ此。しかれとも、こゝに差別有は、非情の草木は其躰 陰物故に、シホ水はあれとも甚しからす。有情は陽物ゆへに、鳥獣等はシホ水甚し。しかれは、シホ水の井の灵備はらさるものなし。如レ此、井の音は、万物を搦む水の故に、潮水(シホミツ)也とあるなり。
(山口志道「言霊秘書」p.410)


◎言霊ワ❷
ワの音は、地を宰りて、万物の形をなす。先に、アの音もワなりとあれとも、空中の水灵にして、形をなさす。只(ただ)空躰にして、自ら天を回るのみ。正しく万物の形をなすものは、シホミツ(水火ミツ)にあらされは、なすことなし。シホ離るゝときは、形をなさす。草木芽かひを生し、葉を出すも、水火の睦む故也。水氣盛をすきて、火氣勝ときは枯れ、又(また)火氣去て水氣かつときは崩るゝなり。又、其躰枯たりとも、有情非情にシホ水に入置ときは、朽ることなし。必(かならず)一度はたもつ。其他、何にても、シホ放るゝときは、形をなすこと無きもの也。故に、美はしく、形を粧ひしたるを、シホラシクと云。老てうるはしき形なきを、シホナキウハと云。若きときは、春の盛の花の如く、其形美はしきは、シホの盛なる故也。又、老ては秋の草木の枯行如く、歯落て、腰の曲れは、シホの衰る故也。如レ此、貌をなすは、シホに非されはなすこと難し。今、此ワの音は、地の方を宰りて、万物の形(かたち)をなすゆへに、シホ水也と有。偖(さて)、こゝに不審の有は、先の井の音にも潮水とあり、今此シホミツ(水火ミツ)と云は、何如なる差別ありや。云(いは)く。井のシホ水は、万物を搦みて備へたるシホ水にして、形をなすものに非。たゝ、自(オ)搦みて備たるのみ。形をなすものに非。此ワの音は、正しく形をなす処なり。是(これ)、渾沌のヽ、天地と形を顕す処の、其形能(よく)顕すものは、シホミツ(水火ミツ)也。故に、此ワ行は、水火の灵なり。又、水火の灵と云にも付ても、先の如く難あり。さきの如く、一物のヽ水火と顕れて、水は澄上り天となり、火は凝り降りて地とならは、此ワ行は地の位にして、火の灵のみ有へきに、何故水火の灵と云や。又、ワ行を水火の灵といはゝ、ア行も亦(また)空水の灵とのみ云はずに、火水の灵とも云へきに、今しからすは如何。解(と)きて云。此訳は、昇るは水にして天、降るは火にして地なれとも、天は空にして形なし。地は初より形を顕はす。形顕るときは、降る火に水氣の交る故也。水火交はらねは、形成(なす)ことなし。今、天も形(かたち)をなして、日月星辰と顕るゝときは、空水に火氣交る故なり。今日にて天を云はゝ、形をなして火水の灵なり。しかれとも、開発の始めは、天は空也。地は、其時より形をなす。故に、地を宰るワ行には、水火の灵と云て、空躰を宰る。天には、たゝ空水の水灵とある也。学ぶ者、深く思ふへし。
(山口志道「言霊秘書」p.420-422)


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記事更新日:2026/07/02