1.暗号解読の歴史
古代メソポタミア文明の遺跡からは、暗号が組み込まれた粘土板の古文書が多く出土しています。この時代に多く用いられたのは、文章や各行の最初の1文字、あるいは単語の頭文字を拾い出して繋げていくと、もとの文章とは異なる意味の文、または語句が現れるというものです。こうした暗号法はアクロスティック(acrostic)または折句(おりく)と呼ばれています。この暗号法は、メソポタミア文明の後期を担ったバビロニアやアッシリアにも受け継がれました。
アッシリアのサルゴン2世の時代には、文字を数字に置き換えて表記する数字暗号システムが多く用いられました。数字暗号システムはユダヤの預言者たちに受け継がれ、ヘブライ語のアルファベットを使った数字暗号システムが発展していきます。
モーセの十戒石板

2.ゲマトリア
文字や単語を数字に変換して暗号化する方法は、古代ギリシャにも伝わり、ゲマトリア(Gematria)と呼ばれるようになりました。ゲマトリアは日本では数秘術と訳されています。当時、ラビと呼ばれるユダヤ教の宗教的指導者たちも、さまざまな方法により聖書の暗号解読に取り組むなかで、ゲマトリアによる暗号解読も試みました。
ローマ皇帝ネロ(Nero Caesal)のギリシャ語表記(Νέρων Καίσαρ)を名前をヘブライ語表記(נרון קסר)にして数字に変換すると 666 になることから、新約聖書のヨハネの黙示録に記されている獣の数字666は皇帝ネロを指すとされています。
◎聖書の暗号解読
ゲマトリアは、聖書に隠された秘密を解読するだけではなく、記述されている内容を補うものとしても使われました。例えば、旧約聖書の民数記第6章「ナジル人(びと)の誓願」では、ナジル人が神に仕えるために自分の身を聖別して特別の誓願を立てる期間が何日間であるか明記されていないものの、自分の身を聖別する方法について YiHYeH(~しなければならない)」という語が多用されていることから、ゲマトリアで Ti-H-Ye-H の4つの文字の合計数が30であることにちなみ、ナジル人の聖別のための特別な誓願期間は30日と定められました。このようにユダヤ教のラビやカバリストたちは、さまざまな方法で聖書を解読し、通常読むことができる表面上の文書だけではわからない神の意思を知ろうとしました。
3.ノタリコン
ノタリコン(Notarikon)はギリシャ語で速記を意味するもので、ある文章や単語の連なりの頭文字を取って新しい単語を作ったり、ある単語からもとの文章や単語の連なりを復元したりすることをいいます。
◎イクテュス
ギリシャ語のΙΧΘΥΣ(イクテュス)という言葉は魚を意味します。ノタリコンの暗号解読では、「イエス、キリスト、神の、子、救世主」のギリシャ語「ΙΗΣΟΥΣ ΧΡΙΣΤΟΣ ΘΕΟΥ ΥΙΟΣ ΣΩΤΗΡ」の頭文字を並べたものになります。

◎アダム
ギリシア語の Anatole, Dysis, Arktos, Mesembria(アナトレー・デュシス・アルクトス・メセンブリア)という4つの単語の頭文字を取ると ADAM(アダム)となります。アナトレーは日の出の女神、デュシスは日没の女神、アルクトスは夜空の女神、メセンブリアは真昼の女神を意味し、これらの四方位を司るものがアダムと解釈することができます。
◎アーメン(AMN)
アーメン(Amen)は日本語で「まことに」と訳されています。この言葉はヘブライ語の Adnai Melekh Namen という3つの単語の頭文字を取ったものであり、アドナイ(主)、メレク(王)、ナーメン(忠実なる)ということで、「主にして信仰深き王」という意味が隠されていることになります。
古代の神官たちは、こうした暗号が聖典の中に隠されていることを知っていたため、聖典の内容を安易に翻訳したり書き換えたりしてはならないと戒めました。
4.テムラー
生き物の遺伝子情報は、DNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる化学物質という形で細胞核内に存在しています。DNAの分子はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基が直鎖上に連結した構造をしており、2本のDNAが左右逆向きに向き合って結びついた二重螺旋の形をとっています。4種類の塩基の並び方は塩基配列と呼ばれ、遺伝子とはこの特定の塩基配列により記載された情報を示すことから、塩基配列はまさに暗号文となります。この4種類の塩基配列によってハエからクジラまで違う生き物が設計されるということで、ここにモノの並びの神秘性が隠されています。
カバラーでは、言葉や単語の文字を並び替えることで別の意味を持つ言葉や単語になることをテムラー(Temurah)と呼びます。テムラーとはヘブライ語で置き換えを意味し、言葉を置き換えることに神秘的な力が宿るとし、魔法や呪術に用いました。
◎鏡文字とテムラー
・God(神)/Dog(犬)
・Live(生きる)/Evil(悪)
・Eva(エヴァ)/Ave(アヴェ)※Ave Maris Stella
◎日本語(言霊)
〈カタカムナ〉
ヒフミヨイ
マワリテメクル ムナヤコト
アウノスヘシレ カタチサキ
ソラニモロケセ ユヱヌオヲ
マワリテメクル ムナヤコト
アウノスヘシレ カタチサキ
ソラニモロケセ ユヱヌオヲ
ハエツヰネホン
〈あめつちのうた〉
アメツチ ホシソラ
ヤマカハ ミネタニ
クモキリ ムロコケ
ヒトイヌ ウエスエ
ユワサル オフセヨ
ヱノエヲ ナレヰテ
〈いろはうた〉
いろはにほてとちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑひもせす
〈いろはうた〉※スキップコード
いろはにほてと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせ す
・とかなくてしす(咎なくて死す)
・やあゑ(ヤハウエ)
・いゑす(イエス)

5.神のことばを受け取る
ヘブライ語の文化では古代より、発音は動きを止めることを意味し、頭で理解することとされました。私たち人間が神のことばを理解したとき、それは神ではなく偶像となります。なぜなら、無限の存在である神を、有限の存在である人間による理解という狭い檻の中に神の存在を閉じ込めることになるからです。このため、神の名前をみだりに口に出すのを禁じるとともに、YHVHといったアルファベットや数字に置き換えることでその存在を伝えていきました。
文字を置き換えることにより、文字と意味の関係は断ち切られます。ここで重要なのは、これによって意識が広がるということです。これは、神のことばを受け取るために器の容量を大きくするためのものです。ヘブライ文字で構成されているトーラーという聖典は神の痕跡とされ、トーラーのテキストを読むときは、暗号を使ってわからないように(頭で理解しないように)することが基本となっています。これも神のことばを受け取る秘儀です。
〔ポイント〕
◎神という無限の存在を有限の器に閉じ込めない
◎聖典はわかるように読んでも意味がない
記事更新日:2025/05/24





























































































